「繁忙期」はもう昔の話?
かつて不動産業界では「繁忙期=1~3月」が定説でした。特に賃貸仲介業においては、この時期に問い合わせが集中し、物件の動きも活発になるのが“当たり前”とされていました。
しかし最近、その“当たり前”が少しずつ変わり始めています。
当社では、売買部門やリフォーム部門はもともと季節変動が小さいのですが、それでも市場全体の動きには敏感です。ここ数年、特に感じているのが「繁忙期の平準化」です。体感としては、11月ごろからすでに賃貸の動きが始まり、年明けを待たずに成約が増えるケースが見られるようになってきました。
大学入試制度の変化が不動産市場に与える影響
以前は1〜3月に問い合わせが集中していたのが、今では11月頃からその波が始まっています。
この背景には、大学入試制度の変化があるのではないかと考えています。
現在の大学受験では、かつて主流だったセンター試験や一般入試による入学の割合が大きく減少しています。文部科学省の統計によると、2024年の私立大学入試においては、学校推薦型選抜および総合型選抜での入学者が、全体の約6割を占めているとのことです。
一般入試の場合、2月や3月に試験が行われるため、住まい探しもそれ以降になるのが一般的です。一方、推薦や総合型選抜による入学者は年内に進学先が決まるケースが多く、住まい探しの時期も自然と前倒しになります。これが、繁忙期の平準化につながっている要因の一つではないかと考えています。
小さな変化の積み重ね
こうした変化は、ある日突然起こるものではありません。毎年ほんの少しずつ動いてきた変化が、気がつけば業界全体に大きな影響を与えるようになっているのです。
学校の入試スタイルの変化が不動産市場に影響を与えているように、他の分野でも同様の「小さな変化の積み重ね」が、静かに、しかし確実に私たちの前提を変えつつあります。これはまさにバタフライエフェクトのような現象であり、だからこそ私たちは変化に対して敏感でなければならないのだと感じています。
世の中の変化は、ときに急激に感じられることがありますが、その実態は多くの場合、「小さな変化の連続」です。そして、その「ちょっと」を見過ごし、対応を怠ると、気づかぬうちに取り残されてしまう危うさがあります。
AIという次なる潮流
目下、社会全体でAIの普及が新たな変化の波となって広がりつつあります。まだ私たちの生活や仕事が劇的に変わっているとは言えないものの、その影響は着実に広がりつつあると実感しています。こうした流れに少しでも対応できるよう、全社員が業務のなかでAIを活用できる環境を整えました。
とはいえ、すべての仕事がいきなりAIに置き換わるわけではありません。これは不動産業が古典的な商慣習に縛られているからではなく、技術革新というもの自体が一足飛びに進むものではないと考えているからです。
技術変化は「グラデーション」
たとえば、かつて電卓が普及し始めた頃、「そろばん付き電卓」という製品があったそうです。
電卓とそろばんが一体になったもので、電卓を信用しきれなかった人々が、そろばんで検算するために使っていたのだとか。
いま聞くと少し不思議に感じるかもしれませんが、当時は真剣に作られ、実際に使われていたのでしょう。
この話は、今のAIにも通じるものがあると思っています。
“歴史は繰り返さないが、韻を踏む”という言葉のとおり、技術の変わり目はいつもグラデーションで訪れるものだと思います。
AIもまた、既存の技術と共存しながら、徐々に主役へと移っていく過程にあるのだと感じています。
完璧を求めすぎないために
AIは本来、とても便利で革新的な技術ですが、「斬新な使い方」や「爆発的な成果」をいきなり求めるべきではないと社内で話し合っています。
確かに、AIに精通した一部の人々は、そうした高度な使い方が可能です。ですが、同じことをいきなりわたしたち全員ができるわけではありません。
先駆者の華々しい事例を見ると、自分たちには使えないと感じることもあるかもしれません。しかし、私自身の経験から言っても、「使えない」というのは多くの場合「使い慣れていない」だけです。
改善が求められるのはAIそのものではなく、使う側のスキルであることが多いと感じています。そしてそれは、少しずつ慣れ、学び、積み重ねていけば、必ず克服できるものだと信じています。
積み重ねというイノベーション
私たちが日々取り組んでいるちょっとした業務や調査を、少しずつAIで効率化していくだけでも、その積み重ねは大きな価値になります。
技術革新は、決して一人の天才によって生まれるだけのものではありません。
多くの人の“ちょっとした工夫”や“ささやかな改善”が共有され、統合され、積み重なっていくことで、大きな革新につながることもあるはずです。
私がイメージし、社として成し遂げたいと考えているイノベーションとは、まさにそうしたものです。
変化に柔軟であるということ
「これまでの常識」や「経験からの最適解」といった考え方を大切にしつつも、私たちは、時代の変化に合わせて柔軟に自らをアップデートしていける組織でありたいと考えています。
気づいたときには、「AIなんて使ったことがなかった頃」の働き方が、もはや思い出せなくなっているかもしれません。