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コロナ禍で学んだもの 突然の業務停止リスクとその対応策

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新型コロナウィルス第7波の到来

2020年春ごろから続く新型コロナウィルスによる影響が、2022年の夏時点でも続いています。WHOによと、7月24日までの1週間での日本国内での感染者は約97万人に上り、同期間で世界最多の感染者数となったとのことです。感染力の強いオミクロン株の猛威はすさまじく、より身近にその存在を感じるようになってきました。事実、弊社の関係者の中でも感染してしまう者が続発しております。先の第6波といわれる2022年の2、3月ごろにおいては育児中の社員において感染者が何人か発生し、弊社社内でも感染の波を実感することがありました。感染しなくとも、家族が通っている小学校や、保育園でも感染者の増加を受け学級閉鎖や、施設全体が閉鎖してしまい、通常通りの勤務ができなくなる社員も多数発生してしまいました。今のところ社員やその家族、関係者における感染で重症化したものは一名も出ていないのは不幸中の幸いです。

かくいう私も2月初頭に子供の発症をきっかけに、家族内で感染者が複数名発生してしまいました。私自身は発症することもなく、隔離期間を満了したのですが、感染していなかったことの確証はありません。隔離生活は本当にきつかったです・・・。

「現場」が重要な不動産業界

不動産取引業は結局は「現場」の業務です。一部リモートで対応可能な部分もありますが、大事な場面ではどうしてもリモートでは対応できないこともあります。お客様をお迎えする店舗は開けておきたいですし、物件を決めるという大事なプロセスの中ではどうしても物件現地にお客様と一緒に現地訪問するということが発生します。いわゆる「労働集約型」の産業なのです。加えて、業界全体的に紙や印鑑をはじめ、連絡手法や手続き手段がアナログな状態が続いていることもリモート対応が難しい場面もあります。このような業態において新型コロナウィルスによる災禍は業務において多大な影響がありました。

なんとか潜り抜けてきた災禍

各種の就労制限が次から次へと発生する厳しい状況の中でも、弊社が通常運営を続けてこれているのは、ひとえに社員みんなによる頑張りが成せる業でした。急遽対応ができなくなった担当者に代わって、別の社員が即時に対応することで何とか対応を続けてこれています。私も経験しましたが、隔離措置の対象となった人はつらい時期だったと思います。しかし同時に、そのサポートに入った残された担当者も同様に業務負荷が急増する中で精神的にも肉体的にもかなりつらい時期がありました。そのおかげでいまのところ大きな業務の穴を放置するような最悪の状況には陥らずに済んでいます。

明和地所にとってのDX

このような社内における業務の相互補完が可能になった背景としては、かねてより進めていた、属人的な業務進行からの脱却も一つの要因です。以前の投稿記事「DXってなんだろう」においても同様のことを述べましたが、業務の分業化と共有化が同時に行われるようにすべく、社内体制を配備しつつありました。その様な弾力性のある組織運営への変革を進めてこなければ、社内のそこかしこで業務が滞っていたことと思います。

以前の弊社は業務進行がより属人的であり、情報の共有が確立できていませんでした。担当者が休みになってしまえば、顧客の対応状況はもとより、そもそもの連絡先が分からない、そもそもどんな顧客がいたのかもわからない、なんていう状況もありました。そのような体制においては到底この災禍からの影響は免れなかったことと思います。

「グループ」と「チーム」

業務変革が進むにつれ、とても重要な点があることに気づいてきました。「事業規模の拡大」が必要不可欠だったのです。仕事量が増大する場面でこそ、その効率化のための分業が必要となる、とも言えます。

少量の仕事であれば、属人的な業務遂行のほうが効果的な場面が多いです。例えば賃貸管理業務でいえば、一人の担当者当たり、200戸を超えない管理戸数であればおそらく全業務を一人の担当者が担うことで業務効率は最適化されると思います。一人で何でもできるようになる、まさに「職人」です。その職人の寄り合いは「グループ」です。各々が独立した業務を担い、各々に最適化した業務内容を構築することで、業務の最適化を図ります。結果、良くも悪くも相互干渉は少なくなります。相反するは「分業方式」です。役割を分担し、複数名で共同の目的を遂行する組織は「チーム」です。

少数では職人方式、多数では分業方式

対応人数の増加に伴う対応可能件数との関係を極度に簡素化させたイメージとしてまとめると以下のグラフのようになると思います。数字は完全に想定値なのであくまでもサンプルイメージです。

職人方式は社内全体で見た場合、上記の通り対応可能件数の向上はある程度はどうしても直線的になります。担当者の個人差がありますが、基本的には従事する人数によりその上限は定められます。もちろん日ごろの修練によりその増加は達成可能ですが、職人である以上、どうしてもその成長スピードは速くないことが多いです。相互干渉の少ない、独立した業務の連続であるという点も各個人の成長スピードを鈍化させる要因となっているのかと思います。どうしても自分の経験からの学びが主となり、他社の経験を自らの経験に取り込む機会が減少してしまうからなのでしょう。

分業方式においても、最大業務量の増大においては必ず増員が必要になりますが、職人方式においてのそれのように、直線状にはならないと思います。少ない件数では優位性が高かった「職人性」は件数の増大に伴う「分業によるチーム力」にはだんだん及ばなくなってきます。実際に弊社内で分業制が進んだ業務において、分業制による業務効率が向上した傾向が見られました。

弱い鎖の理論

人間一人ひとりの個性がある以上、業務の得手不得手も同じように存在します。職人方式では総合的に欠けることがない能力が求められるので、いわゆる「弱い鎖の理論」が当てはまってしまいます。どんなに強い鎖の集合でも一つの弱い部分があれば、鎖全体の強度はその弱い部分に準じた強度となってしまう。総合力向上のための弱点克服を説いた理論です。私は趣味でボルダリングをしているのですが、その業界内ではよく用いられる考えです。個人競技であるが故に、総合力が必要になるからこそ、この概念が用いられるものと思います。

「許容限界数」という考え

安定的に業務を遂行するにあたっては、ある一人の担当者に許容力を超えた業務量を継続して割り当てると、どこかの時点で途端に全業務が止まるというリスク(許容限界数)を考慮する必要があります。許容限界数を超える業務量を個人や組織に割り当てることはできません。

許容限界数を上回る件数を全体として目指していく場面においては、キャパシティーの無駄を承知の上で増員するほかありません。対応件数が増加するにつれ、先行して担当者を増員する必要があります。理論上は件数の増大と担当の増員はセットで行うことが一番無駄がないですが、そうはいきません。そもそも置き換えが不可能だからこその職人です。「職人化」した担当者を増員や代替することは多大な時間とコストが必要ですが、案件受託は人が職人化するタイミングを待ってくれることはありません。つまり全体としての限界数の増加局面においては生産性の低下を承知で、先行して増員しておく必要があります。

新型コロナウィルスによる突然の「業務停止リスク」

コロナ禍で経験した突然の業務停止リスクも存在することが明らかになりました。感染の判明は突然です。とある社員がが突如として出勤できなくなります。無慈悲な新型コロナウィルスは引継ぎの時間など一切与えてくれません。たとえば、「担当者」が一つの業務行程全てを一人で対応するような業務仕分において、もしその担当者が出勤できない状態に陥ってしまえば、その業務全体がストップしてしまいます。これらの様々な「業務停止リスク」を保全するには、業務拡大に伴う増員とは別に、予備人員の確保が不可欠です。

「職人」の予備は難しい

しかし、職人方式ではその予備人員の確保はなかなかなしえないものです。そもそも日ごろから業務に従事し修練を重ねるからこそ職人は職人となります。昔ながらの「徒弟制度」がまさに代表的な予備の職人を確保することを目的とした制度であろうと思います。寿司職人は「シャリ炊き3年、合わせ5年、握り一生」ともいわれます。予備で職人の育成しようとすると、途方もない時間と、余裕が必要となります。

「分業化」によるリスクマネージメント

分業方式においては職人方式のような一個人のスキルが求められないわけではありません。ただ、職人方式に比べ、比較的修練が早期に可能となることが多いです。分業化した結果の細分化された業務であるからこそ、反復継続性が高いことがその要因だと思います。しかし、それ以上に人材による適材適所が可能となる点が大きいと感じています。各個人の特性を踏まえ、適材適所の配置が可能で、たとえ弱い部分があっても相互補完によって全体の強度を高めることが可能です。もちろんその適材適所の配置こそが一番難しいのですが・・・

分業制の普及により俗人的な業務が減少することで、社内における業務の相互補完が可能になりつつあります。弊社の場合、長く職人方式をとっていただけに、各担当者の知見はもともと深いです。その知見が深い社員が、普段は一定の業務に専念しています。しかし、ひとたび他の業務領域において危機的な状況に陥った際には、普段の業務の垣根を超えすぐに補完することができるようになっています。もちろん全業務において完璧な体制を維持できているとは到底言えませんが、その途上にあるとは感じています。

知識、経験の共有化によるスキル向上

そして職人が分業することによりより良いサービスの提供が可能となることも期待しております。元来相互干渉の少ない職人集団が、分業制により業務を共有することにより、各個が高めてきたスキルが共有されることも業制の大きな利点です。実際、数値化はできないものの、そのような業務スキルの伝達が進んできていることは社内でしばしば感じています。これらは弊社の規模感が小さすぎず、大きすぎず、という点が有利に働いているのではないかと考えています。

孤高の職人より心理的安全性

そして何より、この分業制が社員という大切な仲間のためでもあると思います。一人で行う業務は孤独です。好調時は問題ないですが、トラブルを抱えた場合や、業務過多が続いた場合においては心身ともに厳しい時が必ずあります。たとえ具体的な解決手法がなくとも、トラブルを共有する仲間がいるだけで精神的な疲弊度は段違いです。これは私自身が営業を行っていた際にも強く感じてきていたことでもあります。一人で向かう謝罪と、誰かが同行してくれる謝罪とでは精神面で雲泥の差がありました。孤高の職人というのは響きはいいですが、永続性や再現性を考えれば、必ずしも追求すべき対象ではないのかもしれません。本来「心理的安全性」が意味するその対象範囲はもっと広いものですが、この「チームによる対応」はその一端を担うものになりえるはずです。

小規模事業所主体の不動産業界

これらの内容はおそらくメーカーなど生産の現場では一般的かと思います。メーカーや工場などの生産現場においては規模の拡大は常に正義なのでしょう。では不動産業界においてはどうでしょうか。以下グラフは各業界における従業者規模別事業所数の分布割合をまとめたものです。


(出典:公益財団法人不動産流通推進センター、2021年不動産業統計集)

不動産業界においては全不動産事業所数のうち、4人以下の事業所が全体の約86%程度も占めています。おそらく、不動産は地域性が他の業態に比べて高く、大手企業が可能とする一律対応による業務効率が効果的でない場面が多いという特性がその要因なのかと思います。だからこそ他業界に比べて小規模な事業所が圧倒的に多い不動産業界においては、許容限界数や分業制などの概念などはなかなか一般化していないものです。そしていまだに課題を制度やシステムで解決するのではなく、「担当者が頑張ればいい」という思想が業界全体に蔓延しているブラックな雰囲気があるのも、これらの業界構造に端を発する問題なのかもしれません。

「安定性」と「生産性」のはざま

上記のデータが、すなわち小規模不動産事業者の生産性が低いというわけではありません。小規模ながら顧客との絶大な関係性に気付いている企業は多数存在しています。しかし、デジタルトランスフォーメーション(DX)が声高に叫ばれ、業務の生産性と同時に「安定性」も同時に求められる現場においては、小規模ではなかなかその実現は難しくなっているのも一つの事実です。

新型コロナウィルスによる影響は、その構造的な問題として、小規模事業者への影響が甚大になりやすいと思います。不動産業界内で新型コロナウィルスの感染による店舗休業をしばしば聞くようになりました。また、店舗全体でなくとも、担当者の感染による業務停止も頻発しています。生産性を高めることだけに専念すると、人員や、業務の無駄を限りなく削減することになります。しかしそれは同時に、突発的な変化への対応力をも削減することにもなり得ます。減量を極め、体脂肪率を極端に下げると、運動効率は高まる一方、風邪などを引きやすく体調管理が難しくなるというのに似ています。

中規模事業者としての責務

本稿執筆時点で弊社は約60人近くの規模となっており、浦安市内に主たる事業所を置く不動産事業者のなかではトップクラスの人数規模となっています。ただ、業界を見渡せば弊社の規模感をはるかに超える巨大企業様も多数いらっしゃいます。そのような大手不動産業者様と比して、自らでは小規模企業だと思っていましたが、もしかしたら業界内では「中規模事業者」であるのかもしれません。

お客様に対応すべく必死になって業務改善を重ねているうちに、大規模でもない、小規模でもない、今の規模に至っただけのですが、私たちのような事業規模だからこそ成しえる「地域に根差したサービスレベル」と、「業務の安定性」の両立が可能となっている立ち位置なのかもしれません。決して中途半端に陥ることなく、両立を図る責務を感じています。そして、細くも末永く会社が存続することで、地域のため、顧客のため、社員のため、貢献していくことができるよう、日々改善あるのみと考えています。

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ライターについて

不動産業界には海千山千の人間が多くいます。私もこの業界にいることでオモテヅラだけがいいと感じる人に多く会ってきました。時に人を信じるということはとても大事ですが、その人がどのような状況に身を置いている人なのか、そして自分が今どのような状況に置かれているのかを冷静に俯瞰することで、より良い不動産取引体験につながることと思います。今回のコラムを読んだ方が一人でも不幸な不動産体験から縁が切れることを願って止みません。

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